適応行動とは?
・Vineland-Ⅱ(ヴァインランド・ツー)適応行動尺度を使う前に・・・
・Vineland2で測定可能な「適応行動」の構成概念は「個人的、社会的充足に必要とされる日常的な活動における自立的行動(Sparrow,2016)」と定義されます。
・知的能力(知能指数)が生まれつき備わっている個人のスキルや能力とすれば、適応行動は日々の生活の中で必要なときに遂行される個人の自立的な行動のことを指します。
・適応行動は「知能」とは違って、時間の経過とともに獲得されるスキルです。
知的障害との関係
・現在においては、知的発達症(知的能力障害、知的障害)の診断で、適応行動のアセスメントが必要なことは周知の事実ですが、昔はIQ(知能指数)のみで診断をしていた時代がありました。
・知的発達症が、「精神薄弱」や「精神遅滞」と呼ばれていた時代に、初めて標準化された適応行動の評価ツールが「Vineland Social Maturity Scale:Vineland SMS」になります。
・このVineland SMSは、現在日本で使用されている「Vineland-Ⅱ適応行動尺度」(以下,Vineland-Ⅱ)の大本の評価となります。
DSMとの関係
・精神領域、発達領域の診断基準といえば、アメリカの精神医学会が定めたDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;精神障害の診断と統計マニュアル)があります。
Vineland-Ⅱ適応行動尺度とは?
・Vineland Adaptive Behavior Scales(Sparrow et al., 1984)の改訂版(2ndエディション)で、正式な名称としては「Vineland Adaptive Behavior Scales Second Edition」となります。
・日本では「日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度」と呼ばれ、2014年に発行されました。
・Vineland-Ⅱは、対象児の適応行動の発達水準を幅広くとらえることができる評価です。
・もちろん評価としてだけではなく、対象児の支援計画作成や治療効果の評価などに役立てることもできます。
・標準得点で相対的な評価を行うことで、対象児の「強み(S)と弱み(W)」などを見つけることができます。
適応行動の4つの領域と11つの下位領域
・適応行動総合点:①コミュニケーション領域、②日常生活スキル領域、③社会性領域、④運動スキル領域についての総合評価
①コミュニケーション領域(受容言語、表出言語、読み書き)
②日常生活スキル領域(身辺自立、家事、地域生活)
③社会性領域(対人関係、遊びと余暇、コーピングスキル)
④運動スキル領域(粗大運動、微細運動)
*④運動スキル領域は、0~6歳、50~92歳で評定可能です。
*つまり、7~49歳では実施しても同年齢と比較できませんが、発達障害やその疑いがある場合は重要な臨床的情報となり得ます。
不適応行動領域
・不適応行動領域(不適応行動指標:外在化問題、内在化問題、その他)
➡問題行動について、質および量をみることができます。
Vineland-Ⅱの特徴
・IQを測定するWISC等の知能検査のように、「平均100で標準偏差15」で算出されます(下位領域を除く)
・WISC等の「FSIQ」と同様に、Vineland-Ⅱでも「適応行動総合点」という全体の得点を算出でき、前述の4つの領域(コミュニケーション領域、日常生活スキル領域、社会性領域、運動スキル領域)においても同様に100を平均とした標準得点を算出できます。
・それぞれの標準得点には、パーセンタイル順位、適応水準(高いや低いなど)、スタナインの統計値が備わっています。
・4つの適応行動領域は、それぞれ構成する2~3の下位領域(全部で11の下位領域)があり、下位領域の得点は「v評価点」(平均15、標準偏差3の標準得点)と呼ばれるスコアが算出されます
つまり、下位領域はこのv評価点をみれば、ウィークポイントが読み取れます。
・これらの適応行動領域や下位領域のスコアは、検査用紙に打点を打ち、プロフィールを描くことができます
<得点結果のまとめ>
適応行動総合点(100±15)
各領域の標準得点(100±15)
下位領域 v-評価点(15±3)
不適応行動(15±3)
適用年齢と所要時間
・年齢:0歳0ヵ月~92歳11ヵ月
・時間:20分~60分
(フォームを採点し、換算・解釈を完了するまでに別途~30分程度)
・2021年10月に「Vineland-II 換算アシスタント Ver.1.0」が発売されました。
検査者の資格
・使用者「レベルB」
・大学院課程水準の心理学またはソーシャルワークに関する専門知識を有し、検査の実施と解釈について経験を積んでいることが求められます。
レベルA
保健医療・福祉・教育等の専門機関において、心理検査の実施に携わる業務に従事する方。
レベルB
レベルAの基準を満たし、かつ大学院修士課程で心理検査に関する実践実習を履修した方、または心理検査の実施方法や倫理的利用について同等の教育・研修を受けている方。
レベルC
レベルBの基準を満たし、かつ心理学、教育学または関連する分野の博士号、心理検査に係る資格(公認心理師、臨床心理士、学校心理士、臨床発達心理士、特別支援教育士)、医療関連国家資格(医師、言語聴覚士等)のいずれかを有する方、あるいは国家公務員心理職(家庭裁判所調査官等)、地方公務員心理職(児童心理司等)の職で心理検査の実施に携わる方。
使用方法
環境の準備:落ち着いて面談できる部屋を用意し、回答者が答えやすい空間で行います。その際、子どもが検査場面に立ち会う(参加する)ことがないようにします。
・重要なのは、半構造化面接で行うことです。
・質問形式で聞いてしまうと、潜在バイアスをつくってしまうため、自由回答で答えてもらうことで正確性が増します。
① 対象者の状態をよく知る回答者(保護者や介護者など)に半構造化面接を行います。
② 検査用紙に沿って、「生活年齢」を算出します。
*「精神年齢」でも可
③ ②で算出した「生活年齢」に応じた項目から面談を始めます。
④ 検査項目についてオープンに話してもらいながら、各項目を「2」「1」「0」「DK」「N/O」のいずれかに〇をつけて評定していきます。
<評定内容について>
2:1人で通常または習慣的にしている。
➡実際にやっていることが重要。つまり手助けや指示がなくてもできる。
1:1人で時々行動する、あるいは部分的にしている。
0:今までやったことがない、あるいは1人でまったくしない。
DK:回答者が、対象者がその行動をするかどうかわからない。
➡DKは各下位領域に2つまで。それ以上では評定できない。
N/O:項目に【注】がある場合、それに従ってN/Oとする場合がある。
⑤「2」に4連続「丸:チェック」がつけば、それより年齢が低い項目は全て「〇」になります。反対に「0」に4連続「丸:チェック」がつけば、それより年齢が高い項目は全て「×」となります。
⑥ 検査用紙の質問文の前にあるマークを見て、同じマークの質問の回答がまとめて(連動的に)聴取できるように、話を進めていきます。
⑦ 各領域を部分的に実施することはできるが、適応行動総合点を算出するためには、対象児に該当する領域はすべて採点する必要があります。
⑧ 採点し終わったら、マニュアルを参照しながら素点を標準得点(v評価点)へと変換していきます。
⑨ 結果、強みや弱み、パーセンタイル順位などや、各スコア同士の比較も行うことができます。
➡2021年以降は、有料の「Vineland-II 換算アシスタント」を使用すると時間短縮できます。
個別支援計画へ繋げるには?
①評価結果に基づき、適応行動の特徴を検討します。
*知的障害のある児では、知能指数との関係をみるために、知能検査も行うことが望ましい。
②「弱み(W)」の領域について、どの項目ができていないのかを検討し、その項目ができるようになる必要性がどの程度あるのかを検討します。
③「1人で行うことが難しい行動」をできるようにするために、どのような支援が具体的に必要かを考えます。
*採点項目で「1」がついているものを「2」へもっていく考え方。
④「強み(S)」の領域も、さらに伸ばしていくことも大切です。
⑤不適応行動の改善への対応を検討していきます。
留意点など
・3歳未満の場合は、いくつか実施できない領域があります。
・対象者の年齢が、最初の開始項目の年齢よりも低い場合は、実施できません。
・7歳以上だと「運動スキル領域」は同年齢の比較データがないことから、実施しないこととなっています。
➡これは「運動スキル領域」の項目内容が6歳の運動スキルレベルの内容だからです。
・マニュアルによれば、何らかの運動スキルの低下が疑われるような状態であれば得点を出しても構わないようですが、同年齢との比較はできません(6歳レベルとは比較できます)。
個人的意見
・私も臨床で使っている際に、「運動スキル領域」はもう少し年齢域を上げてほしいなと思っていましたが、他の使用者の皆さんも思っていたのか、Vineland-3(日本では未販売)からは、9歳までは運動スキル領域を測定・比較できるようになっているみたいです。
・早く「Vineland-3」も日本に来てほしいですね。
・5~6年ほど前に参加したVineland-Ⅱの研修によると、次からはICT関係(スマホやPCなど)の使用についての項目などもあるようです。確かにスマホは日常生活に欠かせませんもんね。
おまけ
・日本版Vineland-Ⅱは、面接フォーム(半構造化面接により評定)による評価ですが、本国には「保護者記入フォーム」という保護者が自己記入で行えるタイプや「教師評価フォーム」という基礎学力に関連する評価もあります。
・どちらも日本語版はありません。
※使用方法などの詳細については、下記の文献をお読みください。
<参考・引用文献> ・Klaiman, C. and Saulnier, C. A. (2018). Essentials of adaptive behavior assessment of neurodevelopmental disorders. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, Inc. (RC 570.2 S28 2018) ・伊藤大幸,谷伊織,行廣隆次,他:日本版Vineland-II適応行動尺度の開発:不適応行動尺度の信頼性・妥当性に関する報告.精神医学54:889-898,2012 ・谷伊織,伊藤大幸,行廣隆次,他:日本版Vineland-II適応行動尺度の開発:適応行動尺度の項目分析と年齢による推移.精神医学55,2013 ・萩原拓:WS2-1日本版Vineland-II適応行動尺度の概要, 児童青年精神医学とその近接領域, 2016, 57巻, 1号, p. 26-29 ・Doll EA(1935): A genetic scale of social maturity. Am J Orthopsychiatry, 5, 180-188.・ ・Sparrow SS, Cicchetti DV, Balla DA(2005):Vineland adaptive behavior scales, second edition: Survey forms manual. Minneapolis, MN: Pearson. (辻井正次,村上隆・日本版監修,黒田美保,伊藤大幸,萩原拓,染木史緒・日本版作成(2014):日本版Vineland-II適応行動尺度マニュアル.東京,日本文化科学社.)