PrechtlのGMs観察法の使用方法

GMsとは?

➡ General Movements(GMs)

・これまで、胎児期~乳児期にかけての赤ちゃんの体の動き(原始反射など以外)は特に意味はないものと考えられていました。

・しかし、小児科医のPrechtl(プレヒテル)博士は、低リスクの早産児を観察している際、ある疑問を持ち、赤ちゃんの行動や動きに注目するようになりました。

・その疑問とは「赤ちゃんの自発的な運動は、いつから現れているのだろうか?」「一見、不規則な赤ちゃんの動きは、実は自発的な動きなのではないか?」というものです。

・博士は赤ちゃんが「外部からの刺激が無い状態で、自発的に動いていること」自発運動(Spontaneous movement)と呼びました。

・この自発運動の1つに…今回取り上げる【GMs】があります。

・GMsは多様性があり、滑らか・流暢で複雑な動きといわれています。

胎児期から乳児期(生後半年ほど)の赤ちゃんの自発運動の1つであるGMsは、代表的・高頻度で見られる、全身性の運動(数秒〜1分程度持続)のことを指します。

 
 
全身性の運動って?
 
 
全身性の運動とは、上・下肢、頭部、体幹部の運動が連続性をもって変化する動きを指すよ。

Prechtl博士とは?

Heinz Friedrich Rudolf Prechtl(1927-2014)はオーストリア生まれの小児科医で、研究者(オランダのフローニンゲン大学在籍)でもありました。

Prechtl 博士は、発達初期(胎児期~乳児期)における自発運動を評価する方法(=GMs観察法)を確立させました。

 
 
博士の名前から「Prechtl法」とも呼ばれてるよ。

・博士は発達初期における赤ちゃんの自発運動を評価することで、神経発達上の問題を見つけることができると説きました。

・GMs観察法は、高感度・特異的な尺度であることが証明されており、現在は神経発達学的な障害の予後予測に広く利用されています。

開発について

・1980年代初頭には、産科の超音波診断装置は大きな進歩を遂げており、胎児の段階で動きを観察することが可能となっていました。

・Prechtl 博士は胎児の“動き”は、妊娠8週頃の時点でパターン化されていることを発見しました。

・最初の自発運動としては、突発的な驚愕複雑な全身性の運動が出現し、そこからわずか1週間後には独立した四肢の運動がみられます。

妊娠12週頃の時点では、より自発的な動きがたくさんみられるようになってきます。

・いくつかの動作パターンは、多かれ少なかれ規則的な間隔で発生することがわかりました。

 
 
例えば、しゃっくりであれば1~3秒の間隔で、独立した腕の動きあれば約1秒の間隔で発生するといわれてるよ。

GMs観察法

➡ General Movements Assessment

・GMs観察法は、赤ちゃんの自発運動の1つである「General Movements (GMs)」を質的に観察することで、新生児や乳児の自発的な全身性の運動を評価することができます。

・赤ちゃんが発達していく中で移り変わっていく自発運動を観察・分析し、予後予測についてなども、総合的に評価することができます。

 
 
GMsは成長とともに質的に変化して、随意運動の獲得につながるんだね

対象

・受胎後26週から出産予定日+22週までの赤ちゃん

*特に神経発達学的な問題がある可能性がある場合に使用することが多いです。

実施方法

*前提条件:赤ちゃんの覚醒状態が良く、何かに集中していたり、泣いたりしていない時間帯に行うこと。

①上方から、赤ちゃんの全身の動きが映るようにビデオカメラを設置します。

赤ちゃんの表情も見えるように設定)

②対象の赤ちゃんを背臥位の状態で寝かせます。

 
 
下肢や体幹の動きに制限が出ないように、おむつの設定に注意しよう。

③赤ちゃんの生活の中で、支障を及ぼさない時間帯に15分~1時間ほど動画撮影を行います。

④撮影された動画を分析し、観察されたGMsの質的特性が「どのようなパターンの自発運動にあたるのか」を判定します。

GMs評価法の特徴

・赤ちゃんの自発運動を全体的にとらえ、特性をそのまま把握し、その本質をみるという「ゲシュタルト視知覚」に基づいて観察評価・分析を行います。

・GMsはその質的特性により、下記の2つに大別できます。

①writhing movements(WMs)

②fidgety movements(FMs)

 


 
 
WMsは発達していくにつれてFMsへと変わり、最終的には「随意運動」の獲得へとつながるよ。
出産予定日後6~9週頃から15~20週ごろまでの、FMsがみられる時期が、最も神経発達学的な予後予測がしやすいといわれてるね。
 

メリット

観察評価のみで判定を行うことができます。

・赤ちゃんに対し、侵襲を加えず非侵襲性の)評価を行うことができます。

・各時期の自発運動を観察することで、発達神経学的な問題(発達障害や脳性麻痺など)について予後予測を行うことが可能とされています。

 
 
簡単で、安価に実施することができるのもメリットだね。
 
 
ただ、GMs観察法の実践には新生児及び乳児期の神経発達を熟知しなければならないため、トレーニング(評価者として一定の研鑽)が必要だよ

GMs観察法に対する私見

・ビデオ撮影を通して赤ちゃんの動きを評価できるというのは画期的なことだと思います。

・なぜなら生後まもない赤ちゃんは意思疎通ができないため、一方的に(他動的に…つまりは赤ちゃんに触れて)評価を行うことしかできないからです。

・原始反射の残存や左右差をみることで、神経発達上の問題を発見することはできますが、赤ちゃんに与える刺激によっては驚かせることになったり、少なからず負荷や痛みを伴う可能性もあります。

・したがって映像観察から、刺激を与えない状態の赤ちゃんの様子を分析できることは強みだと考えられます。

・そのためにはGMsの理解をはじめ、正常発達や問題のあるGMsを実際にみる機会がたくさん必要になります。

・誰しもが簡単に評価可能なものではないですが、新生児期などの早期からリハビリ職が関わる場合には、とても有用なツールの1つであると私は思います。

・GMs観察法以外のアセスメントを併用することで、より予後予測や目標設定、介入計画などを立てやすくなり、早期から介入することにつながると考えられます。

・これから小児分野に進みたいセラピストさん(特にNICUでのリハビリ介入)にとっては、赤ちゃんの定型発達、様々な反射、そしてGMsの理解は必須だと思います。

・少しでも参考にしていただければ幸いです。

※使用方法などの詳細については、下記の文献をお読みください。

<文献>
・Einspieler, C. and Prechtl, H.F.R. (2005), Prechtl's assessment of general movements: A diagnostic tool for the functional assessment of the young nervous system. Ment. Retard. Dev. Disabil. Res. Rev., 11: 61-67
・de Vries JI, Visser GH, Prechtl HF. The emergence of fetal behavior . I. Qualitative aspects. Early Hum Dev. 1982 Dec;7(4):301-22
・de Vries JI, Visser GH, Prechtl HF. The emergence of fetal behavior . II. Quantitative aspects. Early Hum Dev. 1985 Nov;12(2):99-120
・Einspieler, C, Prechtl, H.F.R,Bos, Arend, Ferrari, Fabrizio, Cioni, Giovanni. (2004). Prechtl's method on the qualitative assessment of general movements in preterm, term and young infants. Clin. Dev. Med. 167.1-91
・大城昌平、儀間裕貴・編:子どもの感覚運動機能の発達と支援 発達の科学と理論を支援に活かす,メジカルビュー社,2018
・新田收、竹井仁、三浦香織・編:小児・発達期の包括的アプローチ PT・OTのための実践的リハビリテーション,文光堂,2013
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