脳性麻痺の痙縮に対する治療②

痙縮に対する治療

・脳性麻痺の痙縮に対する治療としては、様々な研究が行われています。

・ゴールドスタンダードな治療について下記に述べます。

①経口抗痙縮薬

②整形外科的手術今回の記事

③ボツリヌス療法(BTX-A;A型ボツリヌス毒素による痙縮治療)

④選択的脊髄後根切断術

⑤フェノールによる神経ブロック療法

⑥ITB療法(バクロフェン髄注療法、バクロフェン髄膜内投与療法)

⑦末梢神経縫縮術

・今回の記事では「②整形外科的手術」について、下記の内容をまとめていきます。

▷ 整形外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS)

▷ 一期的多部位手術

*今回の記事では取り扱っていないですが、他にも「大腿骨の骨切り」や「外反偏平足の骨手術」など、骨に対するアプローチを行うこともあります。

整形外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS)とは?

Orthopaedic selective spasticity-control surgery

筋緊張の高い筋腱選び、その部位の筋緊張を解し、痙性をコントロールしようとする手術のことを指します。

痙縮による疼痛や関節の変形の原因となっている、筋緊張が高い筋腱に対し、手術処置(筋腱の切離、腱延長など)を行うことで、症状を緩和させられる可能性があります。

骨や関節ではなく筋腱に焦点を当てているため、出血や感染のリスクが比較的少なく低侵襲的な手術とされています。

脳性麻痺の痙縮だけでなく脳血管障害や脊髄損傷、パーキンソン病など、様々な疾患に対して応用的に利用されている方法です。

OSSCSの原理

・人間の体にある短筋(いわゆる単関節筋)は、特に抗重力筋として働いている筋が多いといわれています。

・CPによって、単関節筋に制限筋緊張亢進)がみられていると、人間の体の動きとして重要な、抗重力姿勢自体や抗重力姿勢時の動きなどをうまく行うことが難しくなります。

・この単関節筋をうまく働かせる(促通させる)ためには、短筋と同様に筋緊張が亢進している長筋(いわゆる多関節筋)を緩める必要があります。

*多関節筋の筋緊張が高いことで、単関節筋がうまく動かせなくなっているイメージですね。

高緊張筋腱を緩める方法としては、筋解離(腱延長や切離など)があります。

メリット

原則オペとしては単関節筋に関わらないため抗重力筋の筋力低下がほぼみられないとされています

*ただし、関節の変形や筋緊張が高い場合に関しては、単関節筋にも処置を施さなければいけない場合もあります。

手術により痙縮のコントロールが期待できるため、結果的に抗重力筋の動きが促通されます。

・筋緊張が緩和されるため、運動・リハビリテーション(反復運動練習)なども行えるようになるため機能的なスキルや自発的な運動を練習・改善させることに繋がる可能性があります。

物理的に固まっている筋腱が緩むため重度の痙性部位では特に機能が改善しやすいとされています(四肢麻痺やジストニアなど)

神経に対して手術を行うわけではないため、深部感覚などの損失はないこともメリットです。

・即効性があり、GMFCSレベルが1~2のCP児であれば、術後6か月程度で安定します。

一期的多部位手術(Single-event multilevel surgery)とは?

・1 回の手術で、(下肢の)2 関節レベル以上の手術を行う方法のことを指します。

・これまでの整形外科的手術は、段階的に手術をすることが主でしたが、CP児やその家族の身体・精神的な負担、経済的負担、CP児の歩行特性への理解や三次元歩行分析の発展により、現在は一期的多部位手術が普及しています。

エビデンス

CP児の歩行改善(正常歩行へ近づけることを目的とした一期的多部位手術は、推奨レベルとなっています。

・他にも、他動的な関節可動域の改善や歩行時のエネルギー効率の改善、歩行時の運動力学的な改善などが研究によって示されています。

・整形外科的手術は、痙縮(痙性)を直接的に緩和させることができるという報告も多いですが、痙縮自体というよりCP児歩行能力が改善されるというエビデンスが蓄積されてきています。

 

 

<文献>
・Sharan D: Orthopedic surgery in cerebral palsy: Instructional course lecture. Indian journal of orthopaedics, 51(3),2017; 240–255 ・Thomas SS, Buckon CE, Piatt JH, Aiona MD, Sussman MD: A 2-year follow-up of outcomes following orthopedic surgery or selective dorsal rhizotomy in children with spastic diplegia. J Pediatr Orthop B 2004; 13: 358-366. ・Gough M, Schneider P, Shortland AP: The outcome of surgical intervention for early deformity in young ambulant children with bilateral spastic cerebral palsy. J Bone Joint Surg Br 2008; 90: 946-951 ・Bernthal N, Gamradt S, Kay R, Wren TL, Cuomo AV, Reid J, et al: Static and dynamic gait parameters before and after multilevel soft tissue surgery in ambulating children with cerebral palsy. J Pediatr Orthop 2010: 30: 174-179 ・Saraph V, Zwick EB, Zwick GZ, Steinwender C, Steinwender G, Linhart W: Multilevel surgery in spastic diplegia: evaluation by physical examination and gait analysis in 25 children. J Pediatr Orthop 2002; 22: 150-157 ・Patikas D, Wolf SI, Schuster W, Armbrust P, Dreher T, Doderlein L: Electromyographic patterns in children with cerebral palsy: do they chamge after surgery? Gait Posture 2007; 26: 362-371 ・Adolfsen SE, Ounpuu S, Bell KJ, DeLuca PA: Kinematic and kinetic outcomes after identical multilevel soft tissue surgery in children with cerebral palsy. J Pediatr Orthop 2007; 27: 658-667 ・池田巧、栗林正明:リハビリテーション医療における痙縮治療.京一日赤医誌,第1巻1号,2018 ・日本リハビリテーション医学会・監:脳性麻痺リハビリテーションガイドライン 第2版,金原出版,2014
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